ライブで音を感じること

 先日、ライブ好きな友人と話をすることがありました。
彼女の好きな音楽は洋楽、ポップスやロックなどの大きな会場で爆音で楽しむ分野。
私も音楽のジャンルにこだわりはない方ですが、やはり何でもライブで、ナマ(生)で、
楽しみたいタイプです。
 
 今回のコロナ感染防止のための自粛期間中、気軽に外に出ることがままならない中、
自分にも何かできることがないかなと考えました。
 演奏をライブ配信…私はピアノが弾けないので伴奏しながら歌うことはできず、
ライブ配信するとしても完全アカペラ(笑)。
 それならば、と、友人とのリモート共演、も考えましたが、ドイツの友人音楽家達
はシーズン中にはありえないお休みになった日々に、野菜作りや庭仕事を始めており、
集中的に練習して、未知の世界、音楽の質どう問われるかわからない配信にはかなり
消極的で、躊躇していました。
 そしてこの国で顕著だったのは、音楽で生活をしている、とはっきり主張する人達が
「音楽を無料で提供することはしない」と強く発言していたことでした。
 
 そこで周りの音楽家の雰囲気に『普段できないことをやろう』と自分磨きに精を出す
ことにして(笑)、音楽鑑賞にも精を出してみました。
 『普段できないことが音楽鑑賞??』と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、
日々の練習では体の中で鳴る音と、室内の体の外で鳴る音両方に神経を使うので、練習
以外の時間はできるだけ生活音や話し声のみ、一人ならば無音を望んでしまうのです。
そのため、この時間に音楽鑑賞をすると言うことは、疲弊を伴うかもしれないと案じた、
私にとって慣れない勇気を要する時間の過ごし方となりました。

 最初は<鑑賞>というよりも<勉強>に近くなってしまい、結局楽譜を開きながらの
鑑賞時間となりましたが、次第に自分のインスピレーションが鈍くなり、違和感が出て
きました。今になって考えると『水が足りなくなってきて渇望しているが、そこに注い
でもらえる水が少しずつなので成長したくてもスムーズに成長できない植物のような
気分』。そんな自分の中の違和感ったように思います。

 友達と外で会えるようになって、それぞれのキャンセルになってしまったライブの話、
前述の友人は大音響で楽しむいわゆる<ライブ>、私はオペラやリサイタルの<ライブ>
の話をしていた時、「ライブってね、」と彼女が話し始めたのは<皮膚>の話でした。
 最近観た日本のテレビ番組に<皮膚>をテーマに取り上げた企画があり、それがとても
面白かった、興味深かったというのです。
 最近の番組のようなので、これを読んでくださっている方でも拝見された方がいらっし
ゃるかもしれません。
 
 彼女は『番組内の研究家の方の話を要約すると、<音>には耳では聞き取りきれない
<波長>があって、耳が聞き取りきれない<波長>は肌が感じとることができる。だから
音楽をライブで体験できることは、耳だけではない、五感で感じる体験なのだ』と話して
くれました。

 聴いた演奏に感動して鳥肌が立つということはあっても、耳では聞き取れない波長を
肌が感じているとは‼︎、でもとてもよく理解できる話だと思いました。私の最近の違和感
とその五感体験の話が、自分の中でスーッと合致したのです。
 
 私は早速その番組に携わった研究者の方を検索して、その見識について調べてみまし
た。すると触ったときの肌の感覚はもちろん、肌は光の色の違いも感じているなど、
研究者・傳田光洋さんのお話を様々なサイトで拝読させて頂くことができました。
 
 かいつまんでお話しさせて頂くと、傳田さんはガムランという民族音楽研究に出会い、
このガムラン奏者が演奏中にトランス状態に陥ることを調べ始めます。
ガムランのライブ演奏中はトランス状態に陥るのに、この演奏をCDで聴いてもトランス
状態には陥らない、そこにはこのガムランの演奏中の脳波や血中ホルモンに変化が見られ
たというのです。
 実際、人間の耳で知覚できる波長は16000Hzまで、CDも20000Hzまでしか音が
入らないそうで、このガムランには10万Hz以上の音が含まれていることがわかります。
このことから耳では感知できない高周波の音が人間の生理に影響を及ぼすらしいことに
焦点が当てられました。
 実験ではさらに首から下を遮音シートで覆うとトランス反応が発生しない、皮膚の
バリアを破壊してから30000Hzくらいまでの音での照射実験を行ったところ、10000Hz
以上で皮膚のバリア回復が早まる、など、表皮に何らかの生理的な変化が生じ、ガムラン
の演奏にみられたような状態へ徐々に変化することで、トランス状態にまで達するのだろ
うということがわかったそうです。

 私自身も半年以上ライブ体験ができてませんが、自身の演奏は3月上旬からキャンセル
になっており、その間、他の演奏家とも共演できていません。
 普段は頻繁に合わせなどもあり、他の演奏家の別の楽器を肌で聴くことができていまし
たので、肌が体験するライブ体験は自覚していたよりも多かったのかもしれません。
何より、自分が練習している時に、体の中で鳴る音、外の空間で鳴る音、体の運動的反応
に注意を払い過ぎていて、肌が感じていることを意識したことがなかったとハッとさせら
れました。

 このコロナによる状況の変化がなければ、昨晩私は札幌・ふきのとうホールにて、演奏
させて頂く予定でした。
 この写真のチラシは1月末〜2月上旬作成されていたものの一部です。
 この公演はふきのとうホールさんのご好意により、2021年7月7日に延期されました。
1年後、肌でも感じてもらえる演奏会をみなさまと一緒に体験できますよう、
また精進してまいります。
昨晩予定されていたコンサート 2021年7月7日(水)へ延期となりました。
来年は皆様と一緒に<涼風を待ちながら>五感すべてで音楽を感じられたら、と願っております。

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