マティアス・ゲルネ+ヤン・リシエツキ in Düsseldorf

 2020年8月30日日曜日、ロベルト・シューマンホール(デュッセルドルフ)にて
【Kavier–Festival Ruhr 2020/ルアー地方のピアノフェスティバル】の幕が開けま
した。
 このフェスティバルは名の通り、ピアノ演奏を中心としたフェスティバル。
ピアニストのキャスティングを中心に約2ヶ月間、このルアー地方の街々で演奏会が
開かれる催し物のようです。

 『…ようです』と言いますのは、実は今回初めて知ったフェスティバルで💦
本日初めて演奏予定プログラムを見て、その内容と豪華さに興味を持ったところです。


 さて、私はたった今、このフェスティバルのプレミエ/こけら落とし公演から自宅へ
戻ってきました。
 今晩の演奏会はバリトン、マティアス・ゲルネとピアニスト、ヤン・リシエツキに
よるオール<ベートヴェン>のドイツ歌曲プログラムでした。

 ヤン・リシエツキは1995年生まれカナダ出身の現在25歳のピアニスト。
2009年のパリでのリサイタル開催を皮切りに、2010年にはミュンヘンにてドイツ・
デビュー、日本でもリサイタルを開催している、クラシックファンなら名前も、
その実力も知っていると言われる有名なピアニストです。
 今年はベートヴェン生誕250周年に向けてベートーヴェンピアノ協奏曲全曲録音の
大役を果たし、並行してマティアス・ゲルネとのベートヴェン歌曲集を録音、そして
本日の演奏会ではこの録音の中から多くの曲を演奏しました。

 ヤン・リシエツキのベートーヴェンは、深さや立体的な音色を持ちながら、ムダが
削ぎ落とされた古典ベートーヴェンの音色を底辺に、新しい感覚が織り込まれている
演奏でした。
 この『新しい感覚』と感じたものはバリトン、マティアス・ゲルネからももたらされ、
ヤン・リエンツキの本来持っていた自由な感覚をうまく織り込み、ベートヴェンの
音楽表現をさらに広げた彼ら独自の世界観であるように感じます。
 何よりも、2人の音楽が一度も単独になる事がない、歌とピアノが一体となって、
いくつもの線をお互いが織り合わせながら音楽を創り上げていて、音楽的に不自然な
箇所が一度もないことにも脱帽しました…。

 常に舞台の上で挑戦し続ける2人のエネルギー、音楽が生きているものだと感じさせ
られ、そこで生まれるインスピレーションをその場で受け取り、それを感じ合う。
 舞台役者の芝居が、舞台の上で初めて経験したことのように、その役として生きること
によってセリフが本物になるような、今この瞬間、舞台の上で生まれるどんなものも
『取りこぼさない』2人の演奏、音楽に対しての覚悟ある演奏は、帰り道もまだ耳のそば
で鳴り続け、こみ上げるものを抑えられなくなりました。
 何か頭で云々できない種類のもののような、不思議な感覚の一つだと感じます。

 2人が昨年2019年7月に録音したこのベートヴェンのCDの制作模様、Youtubeで観る
ことができるのですが、その録音風景では模索しながら描く2人の世界観が、1年後、
このような色彩へとさらに豊かさを増したような共演となることにも驚きました。
 そう、共演‼️ってこういうことだよね、という感じでしょうか。共演によって生まれる
パワーやエネルギーの広がりが、無限であり、変容自在であることを見せてもらった、
そんな感覚です。

 
 マティアス・ゲルネは言わずもがな、フィッシャー・ディスカウとエリザベート・
シュワルツコップフのドイツ歌曲の双璧を継いだ第一人者。テクニックはもちろん、彼の
ドイツ歌曲への見識と、その深い精神世界の表現は誰とも比較する事ができません。
 20年以上大ファンでいる私ですが、彼の演奏会にはなかなかタイミングが合わず、
今日は20年間ダントツ1位で憧れ続けた人に会う(私が一方的に見るだけですが😆)緊張
で、会場までも、演奏会が終わるまでも、帰り道も、コレを書いている現在も、椅子の
背もたれに背中をつける事ができません(笑)
 特にプログラム最後の<遥かなる恋人>では、彼が若い時に体が覚えた場所で安定して
歌う声の豊かさに加え、余裕ある表現力で現在の彼らしい表現を存分に活かす演奏が圧巻‼️
でした。
 …他にも数曲、このように感じた曲があったのですが、私が曲と題名が一致しておらず、
こちらのお話はまたベートーヴェン歌曲を勉強してから、思い出して書きたいと思います。

 2020年5月5日に開催予定だったこの演奏会は、3ヶ月以上延期となり本日の公演でした。
5月5日だったら家族全員で行くはずだった演奏会はキャンセルになり、今日は人数の制限も
ありましたので、私1人で出掛けてきました。
 まだまだコロナ感染予防のための規制、対策は続きますが、時間とタイミングの許す範囲
で、少しずつ演奏会に足を運んでいきたいと思います。

a gate

毎日音符たちと過ごす Sängerinのおしゃべり

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